あなたの会社と「あなたの財布」は本当に分かれていますか?

「会社は自分そのものだ」という経営者の情熱は、事業を牽引する力強いエネルギーとなります。

しかし、その情熱が「資産の混同」という形で決算書に現れたとき、それは銀行からの信頼を損なう致命的なリスクへと姿を変えます。

金融機関が融資判断で最も注視するのは、単なる売上数字だけではありません。

「経営者個人の家計と会社の経理が、いかに峻別されているか」という透明性です。

これは「経営者保証に関するガイドライン」においても、経営者保証を解除するための重要な要件の一つとして明示されています。

銀行が恐れる「一体化」という見えないリスク

中小企業では、主たる株主が経営者自身であることが多いため、会社と個人の資産区分がどうしても曖昧になりがちです。

しかし、金融機関という第三者の視点に立てば、この「一体化」した状態は非常に危ういものに映ります。

銀行が最も懸念するのは、融資した資金が事業目的ではなく、経営者個人の私的な用途に流用されてしまうことです。

中小企業にありがちな「公私混同」が、融資の壁になる

「事業用資産」をどう扱うか:事業継続性を守るための判断基準

経営者個人が所有する不動産(本社、工場、店舗等)や営業車を会社業務に使用している場合、そのまま放置してはいけません。

以下の具体的なアクションを通じて、関係性を明確にする必要があります。

賃貸借契約の適正化
個人資産を会社で使用する場合は、必ず「賃貸借契約書」を作成してください。
その上で会社から経営者個人へ、社会通念上、適切な賃料を支払う仕組みを整えることが資産分離の最低条件です。
重要資産の法人所有化
本社、工場、営業車など、事業を継続する上で不可欠な資産については、可能な限り個人所有ではなく「会社所有」にすることを検討してください。
これは単なる事務処理ではありません。
万が一、経営者個人に不測の事態が起きた際も、事業用資産を会社が確保し、「事業を安定して継続できる」という強いメッセージを金融機関に伝える重要な戦略となります。

決算書に潜む「正体不明のお金」:貸付金・仮払金の罠

決算書に「立替金」「仮払金」、そして特に「貸付金(経営者向け)」といった科目が計上されている場合、銀行は「使い道のわからないお金」として最大級の警戒を払います。

特に「貸付金」は、銀行が融資した資金が経営者個人へ還流していると見なされるため、極めて厳しい評価を受けます。

会社から経営者への貸し付けは、「事業上の必要が認められない限り行わない」のが鉄則です。

信頼を勝ち取るための具体的アクション

立替金・仮払金の早期精算
発生したものは放置せず、月次単位など明確なルールを決めて速やかに精算し、決算書に残さないようにします。
【会計処理】「立替金」や「仮払金」は、決算書に残さない
経営者の貸付金
原則、行わない。
会社から経営者への「貸付金」は厳禁
透明性の開示
「TKCモニタリング情報サービス」などを活用し、自社の財務情報を積極的に金融機関へ開示する仕組みを整えましょう。
客観的な監査の視点を取り入れることで、「この会社の決算書は公私混同がない」という確証を銀行に与えることができます。
第三者のモニタリングで、銀行への説得力を強化する

現金管理の鉄則:「会計上の仕組み」が信頼を創る

資産分離において、最も基本でありながら最も疎かになりやすいのが「現金」の管理です。

現金は一度混同してしまうと、取引の証跡が残らないため、後から事実を確認(後置的確認)することは不可能です。

現金管理は経営の基本です。

現金管理がきっちりとできていると、会社の現金の動きに対する会計上の仕組みが整っていることになり、社内の不正や誤りの発見・防止にもつながります。

日常的な管理において、以下の手法を徹底してください。

物理的な分離
小型金庫やコインカウンターを活用し、「金庫の中は会社のお金、外は個人の財布」と物理的な境界を設けます。
毎日の残高照合
現金出納帳と実際の現金を毎日照合してください。1円のズレも放置しない姿勢が、経営管理体制の健全さを証明します。
決済手段の使い分け
クレジットカードは「会社用」と「個人用」を完全に分け、私的な飲食代等を法人の経費として処理することを厳格に排除します。
【現金管理】「金庫の中は会社、外は個人」という物理的な境界線を引く【現金管理】現金出納帳と実際の残高を毎日照合するクレジットカードの利用も「公私」を明確に分ける

まとめ:透明性が生む「最強の経営基盤」

法人と経営者の資産を明確に分けることは、経営を強くするための「仕組み」づくりそのものです。

以下の三つの柱が確立できているか、自社を再確認してください。

資産を分離する
重要資産(本社・工場等)の法人所有、または適切な賃貸借契約の締結。
経理・家計を分離する
個人費用の経費化禁止。立替金や貸付金の早期精算。
経営の透明性を高める
中小会計要領等に準拠した信頼性の高い決算書の作成と、金融機関への定期的・積極的な情報開示。

これらを徹底することは、結果として「経営者保証に関するガイドライン」の要件を満たすことにも繋がり、将来的な保証解除や円滑な融資への道を開きます。

まずは、手元の現金を1円単位で合わせることから、信頼される会社への第一歩を踏み出しましょう。

当記事は「事務所通信2024年6月の経営」を参考に作成しています。