令和8年度税制改正でどう変わる?
インボイス制度
「経過措置」の変更点と、
個人事業主が今知っておくべき
3つの対策

インボイス制度の「第2章」が始まる
2023年10月に導入された消費税のインボイス制度。
開始から1年が過ぎ、日々の請求書発行や記帳実務にようやく慣れてきたという方も多いのではないでしょうか。
しかし、「ようやく一安心」と胸をなでおろすのはまだ早いです。
令和8年度(2026年度)の税制改正により、制度導入時の負担を和らげるために設けられていた「経過措置」の内容が大きく変わることが決定しました。
これは単なるルールの微調整ではなく、特に免税事業者から課税事業者へ転換した個人事業主にとって、納税額に直結する形となります。
この記事では、何が変わるのかを整理し、将来的な増税リスクをどう回避すべきか、具体的なシミュレーションと対策を提示します。
「2割特例」が終了し、個人事業主向け「3割特例」へ
これまでインボイス発行事業者になった際の、最大の負担軽減策だった「2割特例(売上税額の2割を納税するルール)(注)」が、令和8年度の改正で変更になります。
法人については当初の予定通り「2割特例」が終了しますが、個人事業主に対しては、急激な負担増を避けるための「ソフトランディング(緩やかな移行)」として、新たな特例が講じられます。
(注) 適用要件
・インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者となった。
・基準期間(*)の課税売上高が1,000万円以下
* 個人事業主 : 2年前
* 法人 : 原則2事業度年前
3割特例の新設
インボイス制度を機に、免税事業者からインボイス発行事業者となった個人事業主(これまでの2割特例対象者)に限り、納税額を売上税額の「3割」とすることができます。
対象期間は令和9年分および10年分の2年間に限定となります。

また、簡易課税制度とは異なり、事前の届出が必要ないというメリットもあります。
確定申告の際に、申告書に特例を適用する旨を付記するだけで選択できます。
「80%控除」の段階的引き下げと、2年の期間延長
次に注目すべきは、免税事業者からの仕入れに関する「仕入税額控除」のルール変更です。
原則課税(実額計算)を選択している事業者が、免税事業者から仕入れを行った場合、これまでは消費税相当額の80%を差し引くことができました。
これが以下の通り段階的に引き下げられます。
控除率引き下げの新しいタイムライン
- 〜令和8年9月30日まで: 80%控除
- 令和8年10月1日〜令和10年9月30日まで:70%控除
- 令和10年10月1日〜令和12年9月30日まで:50%控除
- 令和12年10月1日〜令和13年9月30日まで:30%控除

今回の改正で、この経過措置の期間全体が「2年間延長」されました。
これにより、免税事業者との取引価格の見直しや、課税事業者への転換を促すための交渉期間に余裕が生まれたことになります。
ただ、「3割特例を使う個人事業主や、簡易課税を選択している事業者」には、この80%や70%といった控除率は関係ありません。
これらはあくまで「原則課税」で、一つ一つ領収書を確認し、計算する事業者に影響するルールです。
「30%ルール」vs「簡易課税」:あなたの業種はどちらが有利か?
今回の「3割特例」の登場により、事業者が取るべき戦略はより複雑になりました。
今こそ、「簡易課税制度」との比較が不可欠です。
そもそも簡易課税とは?みなし仕入率とは?
簡易課税とは、実際の経費を計算せず、業種ごとに国が決めた「みなし仕入率(経費として認める割合)」を使って納税額を出す仕組みです。
| 事業区分 | 業種の例 | みなし仕入率 | 実質的な納税額(売上の) |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 1割 |
| 第2種 | 小売業 | 80% | 2割 |
| 第3種 | 製造・建設業 | 70% | 3割 |
| 第4種 | 飲食店業など | 60% | 4割 |
| 第5種 | サービス業 | 50% | 5割 |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 6割 |
この制度は基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下であった場合に利用できる制度です。
ただし、所轄税務署長へ適用を受けようとする課税期間の初日の前日(個人事業者の場合は前年12月31日)までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

【戦略的アドバイス】業種別・選択の指針
新設される「3割特例」は、売上税額の3割を納める制度です。
これを簡易課税と比較すると、進むべき道が見えてきます。
第4種・5種・6種(飲食店、サービス業、不動産業など)の方
簡易課税(4〜6割納税)よりも「3割特例」の方が有利です。
令和10年までは、特別な届出なしで3割納税を選択し続けるのが正解です。
第1種・2種(卸売・小売業)の方
簡易課税(1〜2割納税)の方が有利です。
ただし、簡易課税を適用するには「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。

今すぐ取り組むべき3つのアクションプラン
改正の切り替わりとなる令和8年(2026年)9月30日は、多くの特例が節目を迎えます。
増税をただ受け入れるのではなく、自社にとって最適な選択を今からシミュレーションしてください。
1.自社の「事業区分」を再確認する
自分の業種が第何種かを確認し、簡易課税(みなし仕入率)と3割特例のどちらが有利か計算してください。
2.届出書の提出期限を把握する
「3割特例」は事後選択が可能ですが、「簡易課税」は原則として適用したい年度が始まる前に届出が必要です。
特に卸売・小売業の方は、出し忘れが数十万円の損につながります。
3.会計システムの設定変更を予約する
令和8年10月から「70%控除」の区分が新設されます。
自社で原則課税を用いている場合、システムの改修や入力ルールの変更が必要になることを念頭に置いておきましょう。
「あなたの事業にとって、3割特例と簡易課税、どちらが将来の成長を支える選択になりますか?」
判断を先送りにせず、令和9年以降の資金繰り計画を今から描き始めていきましょう。
当記事は「事務所通信2026年3月の税務」を参考に作成しています。
